コントリビューション コントリビューション

創業者の床次隆志さんにはじめてお目にかかったのは、25年以上前のことです。

駆け出しだった当時の私は、とあるベンチャーキャピタルのお手伝いをしていました。この会社が主宰していた勉強会に参加していらしたベンチャー企業の経営者のお一人が床次さんでした。当時の社名はまだエイブルコミュニケーションでした。

楠木 建
1964年東京都目黒区生まれ。 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。専攻は競争戦略。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。大学院での講義科目はStrategy。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、同大学同学部助教授、同大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年から現職。趣味は音楽(聴く、演奏する、踊る)。

床次さんの第一印象は「率直な人」。私は率直な人が好きで、自身でも仕事においては率直であることを大切にしているものですから、勉強会での床次さんの言動に注目していました。情熱はあるけれど気負いがない。野心はあるけれどハッタリがない。気負いとハッタリに満ち満ちたベンチャーの経営者の中で、床次さんは異彩を放っていました。

当時の私の仕事場は東京都国立市の一橋大学のメインキャンパスにありました。立川のエイブルコミュニケーションのオフィスとは近い距離だったので、床次さんに私の仕事場にお越しいただいて議論をしたり、大学院の講義にゲストとしてお招きすることもありました。

私も床次さんの会社にお伺いしました。当時の本社は同じ立川でも現在の本社とは違う場所にあり、近くに仏壇屋さんがありました。社名がアルチザネットワークスに変わったころのことだったと思いますが、オフィスでアルチザの将来構想を熱く語った床次さんの、会社の成長と成功に懸ける情熱に圧倒されました。「床次さんの率いるアルチザはきっとうまくいくだろう……」と思いながら、帰りの南武線に乗るために立川駅の階段を上がっていったのを昨日のことのように覚えています。

その後も床次さんに私の仕事場にお越しいただき、定期的に議論するという関係が続きました。その時々の経営課題や床次さんのお考えをお聞きし、私なりの意見を申し上げるだけの、雑談のような会合がいまに至るまで続いています。

アルチザという会社についての
私の印象を一言でいうと、「しぶとい」、
この一言に尽きます。

アルチザは独自の技術に軸足をはっきりと定めている会社です。通信インフラのテストソリューションは、競争構造の変化が激しいだけでなく、技術が間断なく高度で複雑になっていく分野です。最先端でハイエンドの技術に挑戦するアルチザは常に高い不確実性と大きな困難に直面します。しかも、通信の基盤技術の世代の変わり目に需要が集中する面があるため、商売には大きな波があります。

こうしたアルチザの事業立地と戦略からして、これまでにいいときも悪いときもありました。Led Zeppelinの名曲“Good Times, Bad Times”をアルチザの社歌にしてもらいたいぐらいです。それでも、繰り返し襲ってくる苦境を、アルチザと床次さんは潜り抜けてきました。客観的に見て非常に苦しい局面でも、私と議論をしているときの床次さんは飄々としていて、結論はいつも「絶対に何とかなると思います」。それもこれも、アルチザに技術力があるからです。競合他社が諦めてしまうような技術開発に腰を据えて粘り強く取り組む。無理難題にも諦めない。このしぶとさが今日のアルチザの競争優位をもたらしていることは間違いありません。

私は競争戦略という分野で仕事をしています。技術の面では素人ですが、私が勝手に考えるアルチザのあるべき姿は、他の追随を許さない独自の技術「だけ」を、それを必要としている「すべて」の顧客に売る会社、というものです。アルチザは徹頭徹尾技術の会社です。それ以外で勝負すべきではありません。技術開発に専念し、技術以外の余計なことに手を煩わさずとも、それを必要とする顧客にタイムリーに届けることができ、きちんと対価を取れる――これがアルチザにとって理想の商売の姿だと考えます。

もう少し具体的にいえば、
技術を体化した製品を売るのではなく、
技術そのものをサービスとして売る、

という戦略ストーリーです。通信事業者や通信機器メーカーにとって、信頼できる健康診断をしてくれる「クリニック」のような存在になるということです。高価な製品やシステムは買わなくても(買えなくても)、アルチザの技術を必要としている潜在的な顧客は少なくないと思います。商売の波も平準化できるはずです。

これまでもこうした意見を床次さんとの対話の中で申し上げてきました。今のアルチザはそうした方向に向かっていると理解しています。「技術だけで稼ぐ」戦略ストーリーが完成すれば、そのハイエンドの技術が通信業界でますます頼りにされ、アルチザは不可欠の存在になることでしょう。

30周年、まことにおめでとうございます。
アルチザネットワークスの発展と商売繁盛、
社員のみなさまの健康と平和をお祈りしております。

楠木 建
1964年東京都目黒区生まれ。 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。専攻は競争戦略。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。大学院での講義科目はStrategy。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、同大学同学部助教授、同大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年から現職。趣味は音楽(聴く、演奏する、踊る)。

totop